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子どもたちと同じ目線で「コミュニティ」を作りたい

 こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただく「先生に聞きたい10のこと。」。今回は、子どもから「やまちゃん」の愛称で親しまれる山手俊明先生です。

いつも山ちゃんの周りには元気な子どもたちがいます。プライベートでは2人の子育て中。休みの日は自身の子どもと一緒に「1日カフェ店長」としてお店を開くことも。

1.現在の担任、担当を教えてください。

3年生担任、学級活動、算数、道徳、社会科、プロジェクト科(総合学習)、スクールライフデザインチームチーフとして、全校ミーティング・防災防犯などを担当しています。

2.経歴を教えてください。

2005年に新卒で一般企業に就職し、7年間営業職として従事しました。働きながら通信教育で教員免許取得を目指し、2012年教員採用試験合格。2013年から横浜市の公立小学校教諭として働き、その間特別支援級担任も務めました。2020年から新渡戸文化小学校に着任、現在3年生の担任をしています。

3.担当のスクールライフデザインチームとはどのようなことをやるチームですか。

新渡戸は、校務分掌をチームにして動いているのですが、スクールライフデザインチームは、子どもたちが安心安全に過ごす場づくり、主体的に動く場づくりを仕掛けるチームです。「緊急性は高くないものの、重要度は高い」仕事が少なくないのかもしれません。

例えば、「にとこみゅ(新渡戸コミュニケーション)」という学年での縦割り交流の枠組みを作っています。異学年で一緒に学習したりゲームをしたり、スタンプラリーをしたりといったことをしています。社会に出れば異年齢が基本ですし、自分のクラスや学年だけがすべてではありませんので、そうした取り組みもスクールデザインの一つです。

あと2つほどあって、一つは防災防犯。元々新渡戸の避難訓練は年に数回行われていた程度でしたが、現在は毎月のようにやっています。さらに、不審者侵入訓練も始めました。僕自身が、災害ボランティアとして全国で活動してきて、命を守る大切さを痛いほど感じてきました。「ハピネスクリエイター」になるためにも自分と周り人の命を救える人になって欲しいと思っています。

もう1つは、全校ミーティングといって、ルールメイキングの取り組みにも注力しています。学校に今あるルールで子どもたちが疑問に感じていることや困っていること、「もっとこうしたらいいのに」ということを取り上げて、学校全体でルール形成をしていく取り組みです。

1学期には「制服を着てこない、私服デイを作りたい」という2年生の提案から、全校で話し合い、9月に新渡戸として初めての私服デイを行いました。

対話のプロセスに皆が関わることで、自分ごととして考えることができ、決めたルールを守って、穏やかで楽しい時間となりました。過去には、文房具について持ってきてはいけないと決まっていたものを、子どもたちで原則を決めて、規則を変えたこともあります。

制服でもいい、私服でもいい、自分の好きな服を着てこよう!と実施した「私服デイ」の一コマ。子どもも先生も、皆が色とりどりの好きな服を着て集まりました。

4.新渡戸文化小学校に来た理由を教えてください。

元々営業職として一般企業に勤めていたのですが、子どもと一緒に学び合っていきたいという想いから、改めて教員を目指しました。無事教員として働き始めることができたのはとても嬉しかったのですが、一方で、教員になってみて「先生が子どもを指導する」という上下の関係性があることに違和感をずっと抱えたまま教壇に立っていました。

教員になって5年目くらいのときから、「先生」という立場でなくてもいいので、もう少し子どもと「斜めの関係」くらいで関われる仕事はないかな、と思い始めたのです。そういう働き方ができるなら、「先生」という仕事を辞めてもいいとさえ思っていました。

そんなときに、新渡戸文化小学校のアフタースクールを作った平岩国泰(新渡戸文化学園理事長)さんの講演を見に行く機会があったのです。アフタースクールなら僕が思い描いていた子どもとの関係が作れるかもしれないと、講演終了後に平岩さんに思い切って話しかけにいきました。

そしたら、新渡戸文化小学校の教員も募集しているから、新渡戸の採用を受けてみたらどうか、と言われたのです。平岩さんが描く「子どもが主語」という考え方や世界にとても共感し、ここでなら小学校の教員として自分が望むことを目指していけると感じ、すぐに選考に挑むことにしました。

5.実際に着任してみて、新渡戸文化小学校のどんなところにモチベートされていますか。

多くの先生たちが同じことを言うと思うのですが、お互いを尊重し合える関係性と、スタートアップのような雰囲気であることが好きです。何か問題が起きたり、課題が見つかったりしたときも、「ルールだしね」とか「仕方ないよね」といったことにはならず、「じゃあどうしようか」と一から考えることができる教員ばかり。日々の仕事がある中で、様々なことを既成概念にとらわれず、ビジョンに立ち返り、とことん話し合いをしながら進める環境であることに、とてもやりがいを感じています。

6.教育や学びについての考えを教えてください。

子どもは本来、ものすごい力をもっていて、自ら伸びていく力があると思っています。そうした子どもと一緒に支え合い、助け合いたい。そうするにはどうしたらよいか。当然、教員は目立つ存在になどならなくてよいし、教員が「引っ張っていく」などということでもない。子どもが活躍できる枠組みのデザインはとことん考えた上で、できる限り、子どもたちが自ら学び進められるように、見守るような存在でありたいと思っています。

今年度3年生は、スポーツデイ(運動会)やあきるのCAMP(宿泊行事)といった行事を自分たちで作るプロジェクトに取り組みました。プロジェクトのデザインは綿密にこちらで練りつつも、子どもたちが自らプロジェクトを動かしていくことを通して、他者意識や自分の役割への責任感が非常に強くなっていきました。何かあっても、文句ではなくアイデアを出し、教員に頼らず自分ごととして子どもたちがどんどん動いていく姿が見られ、「自分たちで作る学び」の価値を子どもたち自身が強く感じていました。

行き着くところは、「コミュニティ作り」だと思っています。大切な人や、目的を共にする人たちとどう生きていくか。新渡戸文化小学校のビジョンである「幸せをつくる人になる」という「自分と誰かを幸せにする」というコンセプトに繋がることであり、それをどう体現していけるか、を現場で常に考えています。子どもたちには、良きコミュニティの担い手となっていってほしいと思います。

合わせて、コミュニティを作っていくための土台として、子どもたちには人と気持ちの良い関係性を築いていく力を身につけてほしい。そのために、自分の感情に気づく・伝える、感情をコントロールする、他者の感情に共感する、そういうことができるようになるための声かけや子どもとの関わりを心がけています。

7.新渡戸での先生との関わりや、学校運営について、印象的だった出来事を教えてください。

我々の存在目的としての「12の学習者像」を、対話を繰り返しながら生み出せたのはとても良い経験でした。

12の学習者像という目指すべき「北極星」を皆で確認できたことで、行事の話など様々な局面で「そもそも何のために」といった、いわゆる「そもそも論」の目線合わせが容易にできるようになった気がします。本当に子どもが自律的に動けるようになっているかなど、本質的なところをより対話できるようになっている気がするのです。

対話はいつも建設的で、対立ではなく、お互いの立場や意見を認め合いながら話し合える雰囲気なので、そういうところも新渡戸の好きなところです。もちろん、何かを始めようとするとその分時間がかかることも少なくないですが、それは僕らにとって必要な時間であることもまた皆分かっているので、妥協せずビジョンに向かった話し合いができていると思います。

8.子どもとのやりとりで、印象的だった出来事はありますか。

今僕は3年生の担任をしていますが、昨年から持ち上がりなので、彼ら彼女らとは2年生のときから一緒に歩んできた同志です。そんな彼らに少しずつではありますが「自分たちのことは自分たちで決める」といった意思を感じることが多くなってきました。

昨年の冬、給食係の担当を少し変更するという話がありました。コロナ禍で、給食の配膳はここ3年ほど教員がやることが多く、限られた少ない児童が「給食準備係」として簡単なお手伝いをするような形式が続いていました。

コロナが5類になって、改めて従来のような給食当番を持ち回りでやっていこうという流れになったとき、まず僕から、当時の給食準備係の3人を呼んで相談してみました。みんなの前で一気にその話をするより、まずは、準備係として頑張ってきてくれた3人の意見を聞きたかった。彼らには彼らの準備係としてのプライドや矜持があると思っていましたから。

そうしたところ、その中の1人が、すぐにこう言ったのです。「やまちゃん(山手先生)、それはみんなに関わることだから、僕らだけで決められないよ。みんなに相談した方がいいよ」。

もちろん、僕も、この3人にまずは「頭出し」をしたあと、みんなに相談しようとは思っていました。でも「みんなのことは最初からみんなに相談して大丈夫」と言われて、はっとしたんですよね。心理的な安全が教室にあるのだということも嬉しかったですし、根回しじゃないですけど、そんなことしなくても、オープンに議論できるよ、と言ってくれた子どもに感動しました。

みんなでよそって、みんなで配る給食。

また、これも昨年度ですが、郵便局に社会科見学に行った振り返りをしていたところ、ぼそっと「自分たちでポスト作りたいな」って意見が出たんですよね。「なるほど。みんなはどう思う?」と聞いたら、「作りたい作りたい!」となって。作ったら今度は、手紙出したいよね、とか、じゃあ、誰かのことを想って手紙を書こう、と「ハッピーポスト」という構想にどんどん膨らんでいきました。

ともするとこういうことは、「やりたいけど、どの授業の時間でもできないから」といったような理由で、やらないことが多い。でも、郵便ポスト一つとっても、ポストを作ることで図工になるし、手紙を書けば国語になるし、送る仕組みは社会になるし、と一つの「興味」から繋げられる教科はあるんですよね。

授業の合間を縫ったり、自分が担当している授業の隙間時間でやったりするのは大変でしたが、こういう小さいことを大切にしたい。日々のクラスのちょっとしたことを「種」だと思って、咲かせるサポートをするようなことです。子どもが「やってみたいな」と思っていることや、「これやりたいんだけどな…」と漏らすような一言を聞き逃さないようにして、実現することで、子どもたちの自己決定や自己実現を支えたいと思っています。

子どもの「作りたい!」から始まった「ハッピーポスト」制作

9.現在の教育業界や学びのあり方についての考えを聞かせてください。

学校現場も入試なども、「(うまく)できるかどうか」「(よく)知っているかどうか」が重視された結果、学校教育がサービス化してしまって、結果として家庭や地域での教育力が低下しているのではないだろうかと危惧しています。その結果、子どもが試行錯誤する機会、自己選択・自己決定する機会、全力で失敗できる機会を奪ってしまっている気がしています。

ただ、一方でそうした課題感が広く認識されるようになった今、教育業界は大きく変わろうとしているようにも見えています。ネガティブなことを聞くことも少なくないですが、僕はこれからの日本の教育の変革に期待していますし、悲観していません。

10.全力で失敗ができる環境作りはどのようにしたらできますか。

結果よりも、「第一歩」に価値があるということを、子どもたちと、ことあるごとに話しています。友達が第一歩を踏み出せばそれを賞賛し、自分が第一歩を踏み出せば友達から賞賛される世界に慣れれば、きっと踏み出すことが「普通」になりますよね。そして、何かをやる側にも、それを受け止める側にも、今は「失敗」と呼ばれていることへの受容力みたいなものが養われるはずです。

最近、3年生の中でよく使うのは「プロトタイピング」という言葉です。プロトタイピングしている限りは、「失敗」は永遠にないんですよね。子どもたちもそれをよくわかってきてくれていて、やめてしまえば失敗になるようなことも、やめなければ試行錯誤であり、プロセスでしかないということを感じてきているように見えます。

続けていれば、きっと、相手の“失敗”に対して「どんまい!」という言葉にプラスして、「それって、もしかしたら、こうしたらよかったんじゃない?」と次の2歩目を応援する言葉をかけられるようになる気がするのです。そういった正しく批評し合える文化づくりも今子どもたちと挑戦中です。

以前友人から聞いた言葉で好きな言葉なんですが、子どもたちには「実験的な日常」と「日常的な実験」を繰り返しながら、成長していってほしいと思います。

取材執筆:染原睦美
写真:山手俊明