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僕が大学院に通いながら先生を続ける理由

こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。

一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただく「先生に聞きたい10のこと。」。今回は、大学院に通いながら先生を続ける鼻﨑吉則先生です。

新渡戸文化小学校にきてまだ1年半の鼻﨑吉則先生。趣味は旅で、地域にどっぷり浸る旅が好きとのこと。四国遍路やスペインの巡礼路を踏破したことがある強者です。

1.現在の担任、担当を教えてください。

4年生の担任、国語、プロジェクト科、道徳、学級活動を担当しています。

2.経歴を教えてください。

大学を卒業してすぐに入社したのは教育関係の企業でした。そこで3年間、教室運営コンサルティング職として働きました。その後、地元の教育大学大学院で教員免許状取得、教育学修士を修了したのち、愛媛県の公立学校教員として13年間松山市内の小学校2校で学級担任として勤務しました。在職中に教員特別派遣制度で青年海外協力隊に参加し、ニカラグアの学校でボランティア活動にも従事しました。その後、2022年4月に新渡戸文化小学校に着任し、現在に至ります。

3.新渡戸文化小学校に来た理由を教えてください。

3年前、コロナ禍でいち早くオンライン対応していることを知り、前例踏襲や消極的な理由による意思決定ではなく、その状況の中で最善を模索しながら実行し続けていることに魅力を感じました。

ちょうどコロナ前にVIVISTOPの山内(佑輔)さんと知り合う機会があり、当時山内さんもまだ公立の先生だったのですが、年度が替わって新渡戸文化小学校に入られたと聞きました。山内さんのSNSから伝わってくる新渡戸の雰囲気がすごくよかったんですよね。コロナ禍でオンライン授業が開始したわけですが、山内さん自身が「本当にこのタイミングでこの学校にきてよかった」と。

僕自身は、年齢的にも次のフェーズに向けての意思決定をしたいと感じていたこともあり、思い切って行動してみようと思い、新渡戸の門をたたきました。ご縁があり、結果、40年間出ることのなかった西日本を初めて離れて東京へ上京することに決めました。

4.新渡戸文化小学校のどんなところに惹かれていますか。

ハピネスクリエイターというミッション・ビジョンと、先生たちです。ほかにももちろんたくさんあるのですが、ここが一番だと思います。

5.先生について、具体的にどんなところに惹かれているのでしょうか。

新渡戸文化小学校の職員室は最強だと思っています。一人ひとりが自分の「一等星」を持っている。自分の信じる道を実現するために集まっていて、その多様性がすごく面白いと感じます。バスケットボールやサッカーみたいに、速攻型のスポーツをしているような職場です。情報共有・相談から意思決定・実行までのスパンがものすごく短い。

先生たちの楽しそうな声がいつもあちこちから聞こえる新渡戸文化小学校の職員室

着任当初はそれまでの学校での仕事の進め方とは大きく異なり、戸惑いもありました。でも、とにかくいろんなことを面白がる先生が多くて、化学反応や「やってみよう」という雰囲気がどんどん生まれる職員室は本当に面白くて、必死でついてきた感じです。先生が学ぶことに対してオープンでなければ、面白い学びは作れません。先生たち自身が自律学習者だからこそ、子どもたちにもまた自律学習者像を示せるのだと思っています。

6.学びの場においてどんなことを大切にされているかを教えてください。

「知れば知るほど世界は広がる」ということでしょうか。それを子どもたち自身が気付ける機会をたくさん提供していきたいと考えています。

僕自身は、高校卒業まで、一方的に与えられる学びに面白さを見出せませんでした。一方、大学入学後、協働する面白さや、自ら学びを作っていく経験をして、学ぶことの楽しさを実感しました。

「学ぶって楽しい」ということを伝えていきたいという思いは、社会人になってから一貫している気がします。小学校は、「学びは楽しい」と思える一番の場所だと思っています。だからこそ、小学校教員を志したところがあります。

移動したり、付箋を使ったり、様々な学びのスタイルを取り入れる新渡戸文化小学校

私自身が絶えず新しいものに触れて、学んで、視野を広げていきたいという欲求が強いタイプなので、そうした姿勢で子どもともふれあっていれば、子どもも自然と新しいものや学びに対して積極的になるのではないかと期待しています。

7.やりがいを感じている授業や、子どもたちとの関わり、注力している学級作りの方法を教えてください。

なぜ学ぶのか、なにを学ぶのか、をちゃんと理解した上で、取り組んでもらうことを心がけています。例えば、国語であれば、ただ文章を読ませて「音読」「感想」などをアウトプットしてもらうのではなく、まず、何をそれぞれの単元で学んで欲しいのか、ということを最初に説明し、それを学ぶためのモデルやテンプレートが教科書である、という風に伝えます。

教科書はテンプレートであり、そこから何を学び、何を自らアウトプットしていくかが重要、と話す鼻﨑先生

例えば、ある国語の文章で、動物同士が協力して生きていることや、協力する理由、どのように協力しているのか、ということを説明する文章があったとします。これをこの文章だけを読んで終わらせるのではなく、この文章は特定の例を説明するある種のテンプレートとして位置づけ、自分の考えで、同じ枠組みで文章を書いてもらうといったことをします。

自分が好きな動物を選んで、その動物はどんな動物と協力しているのかを調べて、なぜ。どんな風に協力しているのか。それをまとめてもらって、1枚の紙にまとめてもらう。そうすることで、教科書に載っている誰が書いたか分からない文章で学ぶより、圧倒的に自分自身の血肉になりますよね。

子どもたちが教科書を「テンプレート」にして、自分で作った文章

8.なぜ大学院に通われているのですか。

第一に自分自身が学び続けることが大好きだからです。前段でもお話したとおり、私たち自身が学ぶことをやめたら、子どもたちと一緒に学ぶことなど、到底できないと思っています。

大学院では、政策学の領域で雇用・キャリア・人材開発のゼミに所属しています。自分が属する集団などを離れて新たな学びを得る「越境学習」に興味があり、教職員にも越境学習は重要なのではないかと考えています。

現段階でのテーマは「公立学校から私立学校に転職した小学校教員の教職アイデンティティ」。転職動機の要素分析をすることで、これからの学校教育に求められるものをつまびらかにできるのではないかという仮説があるためです。研究対象となるのは主として新渡戸文化小学校の先生。どんな結果が導き出されるか、今から私自身とっても楽しみです。

9.新渡戸文化小学校について「もっとこうしたい」というポイントがあれば教えてください。

先生たちの魅力がより発揮されるような余白づくりがあるといいなと思います。一般の学校から比べると、今でも十分先生の働き方改革は進んでいますし、複業もOKといった余白へのコミットは素晴らしいと思います。一方、まだまだ運営面で合理化・システム化できる部分はあると思います。

新渡戸は「全員野球」のようなところがあって、それは学年担当制や教科担任制にもそれが現れています。一方例えば、自分の授業がないときに職員室にいて、どこかの学年に何かあれば、自分の学年ではなくても、飛んでいくんですよね。そうした文化が根付いている。それ自体はすごくよいことなのですが、結果として、子どもに向き合う時間は相当の時間を要します。

このあたりのバランスは非常に難しく、このやり方だからこその素晴らしさもあるので、何かを決めてしまうことで失われるデメリットを考えながら、そのバランスの取り方には十分配慮するべきかなとは思っています。

10.現在の教育業界や学びのあり方についての考えを聞かせてください。

授業の内容や方法、学校運営システム、授業研究をはじめとした教員研修体制などについては、日本の公教育の質は非常に高いと感じています。長い時間をかけて培われた学校運営方法にも、そこに帰結した合理性、特にエラー低減の側面で一定の価値をもたらしていると理解しています。

その反面、システム化されすぎて見失われていることもあるのではないかと感じています。理想論ではありますが、学校は子どもも教員も一人ひとりの個性や想いを輝かせる場でありたいと思います。そのためにまずは、教員の個性が発揮できる環境や場づくりがとても重要だと思っており、その一旦を担える学校作りを新渡戸文化小学校で実現できたらと思っています。

取材執筆:染原睦美