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「不完全が完全」そんな新渡戸で、子どもたちと繋がっていたい

こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただく「先生に聞きたい10のこと。」。今回は、橋本理祈矢先生です。「最初は『新渡戸に行きたい』という強い思いがあったわけではなかった」と話す橋本先生。着任から2年を経て、誰よりも新渡戸を体現しているような先生になったのは、橋本先生の子どもへの眼差しを見れば自明とさえ思えます。

子どもたちからは「リッキー」と呼ばれる橋本先生。優しい笑顔が印象的です。

1.現在の担任、担当を教えて下さい。

4年生の担任と国語の授業担当をしています。

2.経歴を教えて下さい。

2018年に大学を卒業したのち、小中一貫の公立小学校に5年間務め、2023年4月から新渡戸文化小学校に着任しました。大学4年生のときの実習先に新卒で就職し、学校併設だった特別支援教室の教員を3年間、その後5年生と6年生の担任を経て新渡戸に着任しました。

3.新渡戸にきた理由を教えて下さい。

正直、僕自身は他の多くの先生と違い、新渡戸文化小学校そのものに強い想いを持って来たわけではありませんでした。当時僕は、公立における仕事のやり方において、日々の仕事やタスクをこなすことで精一杯で、自分のやってみたい教育ができない、子どもたち全員が、教科書で決まった方法で同じ内容をやることに窮屈さを感じていました。「私立」という、学校それぞれに特徴があるところで、もう少し選択肢のある教育を試してみたかった。そんなときに、たまたま出会ったのが新渡戸文化小学校だったのです。今では、運命だったとしか思えません。

4.新渡戸の先生たちと関わる上で印象的だった出来事や、インスパイアされている点があれば教えて下さい。

2024年7月にTEACHERS’ HUBというイベントを新渡戸が開催したのですが、新渡戸という一つの団体を超えて、教育を介して様々な教育関係者が「つながる」場でした。元々一人の先生の「やりたい」の声から始まり、それに賛同して皆が「いいね!」となって、先生たちも学園も一緒になってやって実現したものでした。熱意や行動力に圧倒されましたし、大人が「変えられる」「実現できる」というのを身をもって体現しているのは、子どもたちへの何よりのメッセージになると思っています。

先生たち同士が、様々なことに挑戦したり、励まし合ったりできるグループであることは大きいと思っています。常日頃から先生たち同士が「分かり合う」ことを何より大切にしており、そのための学び合いの機会がたくさんあったり、その雰囲気づくりに注力していたりといったところの土台づくりがあるのが新渡戸の特徴です。

例えば、土台づくりの一つとして、「MBTI」を先生方全員が理解しているところも特徴だと思います。一時期性格診断のような形で流行りましたが、本来のMBTIは「『心の利き手』を理解する」というコンセプトの下、人それぞれがどのような考え方の特徴を持っているかを理解するためのツールです。16種類の分類において私は、「INFP」というタイプで、どちらかというと自己開示が苦手なタイプです。

先生たち同士が、お互いの特性を分かって接し合うので、僕が例えば何かを言いづらそうにしている時も、自己開示が苦手だというところからアプローチしてくれ、助けてくれる。僕もまた相手に対して、理解を深め、相手のことを尊重して仕事ができます。

5.教育、学びについての考え方を教えてください。学びの場においてどんなことを大切にされているかを教えてください。

学びの場で大切にしていることは、「子どもが『主体』『主語』であること」「選択できること」「ワクワクすること」です。

学びの主体は常に子どもです。「授業を受けている」という感覚ではなく、「自分で学んでいる」という感覚を子どもたち自身がもてるような授業構成を常に考えるようにしています。もちろん必要な知識やそのヒントとなるようなことは提示していく必要はありますが、飽くまで子どもが中心となって進んでいく「学びの場」が必要だと思っています。

2024年度は4年生の担任をしているのですが、学びの場がうまく設計できたかどうかを子どもたちに聞いてみることにしました。僕自身が国語の授業で実施したいくつかの「方法」について、子どもたちに感想を求めたのです。いわゆる僕にとっての360度評価のようなものですね。

1学期の終わりに使った振り返りシート。子どもたちから橋本先生の授業について評価してもらい、誰がどんな授業に興味を持っているか、授業の内容が子どもたちに響いているか、などフィードバックを得られたといいます。

例えば、「広告を読み比べよう」の単元では、子どもたちに身近な題材で実際に広告を作ってもらい、「広告キングダム」と名付けて選手権のようなものを実施しました。グループでやったこともあったのか、ケーキ屋さんの広告を作る等身近な題材だったからなのか、教室全体の熱量がものすごく高かった。評価シートでも多くの子供達が高評価をつけていました。一方、興味深く感じたのは、30人いたら30人全員が100点をつける授業はなかったのです。子どもに人気のあった広告の授業でも、満足度が低かった子どもはいましたし、逆に、多くの子が「いまいち」と評価した授業に高評価をつけた子どももいます。僕の授業の質というのもそうですが、子どもは本当に多様で、感受性が豊かです。そうした子どもたちにどう答えていくかを考え続けていきたいです。

「学びの主体が子ども」であることの前提となるのが、「選択」と「ワクワク」だと感じています。例えば、手紙一つとってもそれを書くときに、いろんな用紙や、封筒を用意してみたり、やり方やアウトプットのスタイルを選んでみたりできるといいですよね。手紙を「人に何かを伝える」というツールであると捉えるなら、Keynoteにしてもいいかもしれないし、作品をつくってしまってもいいかもしれない。どれも全部素敵な方法です。その授業で付けたい力がはっきりしていて、それが身につく方法であるならばいいかなって思います。そこでもし評価をする必要があるなら、その評価方法を事前に私達大人が示しておけば、そこに至る手段は子どもが選べるのがよいと思っています。誰しも得意・不得意があって、自分自身を生かせる活動の方がいいですよね。

学ぶ場さえ選んでもよいと思っています。マットの上でリラックスしてやってもいいし、ベンチに座ってやってもいい。もちろん自分の席に座ってやる授業も、たくさんあっていいし、内容に合わせて授業スタイルを柔軟に変えていけるようにできるのが最高だなあと思っています。

居心地の良い場所や集中できるスペースは、人それぞれですよね。

選択した上なら、必然「ワクワク」も生まれますよね。何より僕自身が、子どもたちのワクワクキラキラしている顔を見たら、「やった!」と思うんです。インクルーシブの考えに近いのですが、自分で選択できる状態はすごく大切だと思うんです。

大人になる過程で、もしかしたら、全部が全部自分が選べるわけじゃない局面も出てくるかもしれない。でも、そんな状況でも、自らワクワクできる状況を作り出せる人、前向きに頑張れる人を育てたい。自分がワクワクできる方法やそのとき感じた「ワクワク感」を知っておいてさえいれば、どんな状況でも乗り切れると思うのです。

6.やりがいを感じている授業はどのようなものですか。

僕が考える授業の理想は、子どもたちが「やりたい!!」「先生、準備していい?」と休み時間からワクワクソワソワする授業であり、家でも進めたいと思える内容の授業だと思っています。前段でお話した「広告キングダム」はまさにそんな授業でした。休み時間に取り組む子どもたちもいましたし、僕もその熱量にほだされて、本来想定していた時間数を大幅に増やして取り組んだほどです。

そんな状態のとき、教室は、明らかに雰囲気が違うんですよね。学びに向かう全体の雰囲気がすごく良くて、「ああ、きっとこれは、子どもたちにとって素敵な経験になるなあ」と感じる瞬間になります。自分も含めて教室全体の温度感が高い、そんなイメージです。こうした状況を作るには、「探究学習」の要素をいかに入れていくかがきっと重要になってくるのだと思っています。

7.注力している学級作りの方法などの具体例があれば教えてください。

学級作りで大切にしているのは、学級を「一つの感情を共有している状態にすること」と「誇りを持てる状態にすること」です。子どもたちには、誰かの思いに気付ける人になってほしいと思っています。

彼のあの考えに寄り添ってあげられて素敵だったね!」「あの子の気持に気づいてあげられるようになれたらもっといいね」といったように、誰かの考えや気持ちに対して注意が向くようなコミュニケーションを心がけています。大事なのは、飽くまで「共有」であって「共感」ではないことです。もちろん共感できれば理想ですが、一人ひとり考えは違うわけなので、その考えや思いを尊重できる状態になれるのがよいかなと思っています。

「共感」も大事だけど、まずは「共有」できる仲間に。

想いを伝え合うためには、子ども同士、子どもと大人がしっかりとした「繋がり」を作っていくことが大切ですよね。子どもと大人でいえば、最近、1学期を踏まえて、2学期にもっと僕自身がより密にコミュニケーションしたいと感じた子を1列目、2列目の座席にしました。この世代は特に、物理的な距離って心理的な距離につながると思ったのです。

その際、背の高い子どもが、先頭の席になりました。背の高い子は、いつも座席が後ろの方ですが、2学期が始まったタイミングで、子どもたちにも意図や思いを伝えて思い切って背の高い子どもを前にさせてもらったんです。授業のスタイルややり方で、席の見えやすさはカバーできると思うし、それをやらずにサボっていたのは大人の方じゃないかと思ったのです。考えてみれば、「背が高い」という本人には「変えられないこと」に気を取られて後ろにさせられるって、理不尽ですよね。今回だけまず試させてほしいという私の思いをオープンに伝えてみたら、子どもたちも私の気持ちや意図を分かってくれ、相互理解につながった気がします。

「誇りを持てる状態にする」という点では、子どもたちにできるだけ自分たちのクラスを自分たちで運営できるような機会をつくるようにしています。基本的には、クラスのルールを決める時は、全部子どもたちに投げます。もちろん、学校として守るべきルールや、教師として大切にしてほしいマインドを伝えた上で、ルールは決めていきます。

公立小学校に務めていた頃、6年生のクラスで子どもたちの話合いの結果、「クラスの中のルールは自由」というルールが成立したことがありました。みんなで決めて、一週間試しにやってみたところ、誰からともなく「やっぱりルールがあった方が過ごしやすくない?」という意見が出てきた。結果、満場一致で「ある程度ルールは必要」ということになったんです。「時間割って必要だね」とか「チャイムがあると、気づきになってありがたいね」と、もともとあったルールや仕組みについて見直すきっかけにもなりました。子どもたちが自ら決めたことを、みんなで実際にやってみて一緒に考える、これができるようになることで、自分自身や自分が属するコミュニティへの「誇り」が生まれるのかなと考えています。

8.子どもたちとの関わりにおいて、大切にしていることはありますか。

私の根幹にあるのが、とにかく目の前の子どもたちのことが大好きであるということです。子どもたちには幸せな人になってもらいたいし、新渡戸が目指す「幸せをつくる人」になってほしい。教員だったらそんなの当たり前と言われるかもしれませんが、目の前の子どもたちといることに日々、幸せを感じています。その思いをとにかくたくさん伝える、関わりの全てで子どもたちに対して「ありがとう」の言葉と気持ちを持つことを大切にしています。

そして、その気持をいつも伝えるようにしています。実は、「褒める」という行為が、すごく苦手なんです。お世辞というか、大げさな感じというか、言っている僕自身が僕に対して感じてしまう。そしてそれは子どもにも通じるのではないかと思ってしまうんです。一方、リスペクトの心を持って本当に感じた事実を伝えることなら、簡単なんです。「ありがとう」も「嬉しい」も「ナイス!」も、思ったら思ったときに思っただけ伝える。「あなたのここに感動した!」と、出来事・事実を言葉にするのです。

もっというと、それをより具体的に伝えるように心がけています。例えば、漢字を書くときにとても上手に書いている子がいるとします。その場合、上手だね、きれいだねと伝えることがあります。一方、そうした感動や事実は、もっと解像度高く伝えられるだろうなと思うのです。

「上手」というのは、昨日と比べて上手なのか、線の長さや位置、「とめ」「はね」「はらい」やバランスが取れているのか、画数が多いから上手なのか、その子が好きな字だから上手なのか、気分がのっているから上手なのか、丁寧な気持ちがこもっているから上手なのか、書きなおしているから上手なのか。色々あって、全然違いますよね。「上手だね」にもいろんなグラデーションがあって、漢字をみたときに、そのグラデーションに気づいて声をかけてあげると伝わるのかなと思います。その子が「線を書く位置に気をつけて書いた字」なら、線の位置を褒められたら一番嬉しいですし、よく見てくれているなって思いますよね。

そんな風に子どもたちと関わって過ごしていると、1年間の終わりに、自然ともっと一緒にいたいなと思いながら終われる感覚があります。子どもたちのあたたかい心も感じますし、お互いが繋がった気持ちを持てる、その瞬間が大好きなんです。そういう気持ちを持った学級や、子どもたちを育てたいなという思いで、毎年向き合っています。これは特別な年があるわけではなくて、これまで毎年、担任をもった時はすべてそうでした。今は教員としてそんな時期なのかもしれませんが、ずっとそうありたいです。

9.新渡戸について、もっとこうしたい、現状課題に感じていること、などがあれば教えてください。

新渡戸っていつも不完全な状態で完全なんです。いつも新しいことを取り入れて、改革を進めている。だから、時代に合わせて進み続けて変わり続けることができるけど、その分、自分も学び続けて変容し続ける必要があると感じます。

以前、新渡戸の職員同士で、私立の学校が時代の流れに応じて変わっていくことについて議論したことがありました。そのときに、ファミリーレストランのようにあらゆるニーズに応えるよりも、老舗の料理屋のように、「蕎麦」「パスタ」といった幹を持っていること、そしてその幹は変えずに進化していくことが大事だよね、という結論になったのです。

その時印象的だったのが、校長補佐の遠藤さんが「新渡戸は、『蕎麦パスタ』を作っている」と言ったことなんです。御本人は冗談のような気持ちで言ったと思うのですが、僕にはすごく腹落ちしたし、感動さえ覚えたんです。変わらない伝統を大切にすることもありながら、革新性を持って新しいものを作りながら進んでいく。この難しいバランスをどうとっていけるかというところが引き続き難題であり、挑戦であると思っています。

もう少し具体的なところで言えば、学年の縦のつながりをもっと強めたいですね。学年を超えてやりたいことは様々な先生から日々意見がでるのですが、それを実現するスケジュールの余白がないので、実現できてないことが多いと思います。

新渡戸の教室では、よく1年生のクラスに6年生が遊びに行く様子が見受けられます

10.現在の教育業界、学び、公教育について、良いところと課題についてお考えをお聞かせください。

難しいテーマだと思います。個人的な考えとしては、AIや機械化が著しい進歩を見せる中で、「学校で『人』が教える意義」をもっともっと考えていく必要があると思います。子どもたちが社会に出る10年後には世界がまた大きく変わっているかもしれません。それに適応できる力をつけることが必要だと思います。「ICTを活用できる力」などと言われることもありますが、そうではない気がするんです。今までもこれからも変わらない大切なことを学校で今学ぶとしたらどんなことだろうと、真剣に考えたいですし、少なくとも人と人とのつながりを学べる場であり続けたいと思います。

社会のあり方でいうならば、子どもたちが希望をもって大人になることができる社会をつくりたい。SDGsも見方を変えれば、私達大人が起こした問題を、負債として次の世代の子どもたちに背負わせているようにも見えなくないと思っています。人類の問題としては必須ですし、大切ですが、それって「希望」になるのかな、と。もっと大人になることにワクワクできる社会を子どもと一緒に作っていきたいですね。

執筆:染原睦美