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子どもは大人の鏡、正直な自分で向き合いたい

こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただく「先生に聞きたい10のこと。」。今回は、鈴木妃香里先生です。地方で公立小学校の先生として働き、一般企業も経験したのち新渡戸に着任した鈴木先生。子どもたちの前ではいつも正直な自分でありたいと話します。

現在担任をしている1年生は「4人体制」で学年を見られるのが強み、と話す鈴木妃香里先生(右下)。子どもと向き合える先生の数が増えれば、子ども一人ひとりの特徴に合わせた教育ができるはずと話します。

1.現在の担任、担当を教えて下さい。

1年生の担任に加え、授業では国語、算数、生活を担当しています。

2.経歴を教えて下さい。

地元の大学を卒業後、出身地の札幌にて公立小学校の教員として5年間勤務しました。その後本州へ引っ越し、一般企業で1年半ほど事務職を経験し、2022年9月に新渡戸に着任して今に至ります。

3.新渡戸文化小学校にきた理由を教えて下さい。

一般企業に勤務しながら、やっぱり学校に戻りたいなと思ってしまったんですよね。そもそも一般企業への転職は「先生ではないことも経験してみたいな」と思ったことがきっかけです。一方、企業に就職してみると、子どもたちの成長とともに自分も一緒に成長するような感覚や子どもの成長を間近で見られる喜びに勝るものを得られなかったのです。やっぱり私は学校が好きだったんだな、と再確認させてもらいました。

学校に戻ろうと決めて勤務先を探し始めた直後に、産休の方の代わりに臨時職員として派遣された先が新渡戸でした。半年の任期で着任しましたが、契約期間が終わるタイミングで正規雇用としての採用となりました。

4.臨時職員として期間限定での着任でしたが、正式に新渡戸に就職することになった決め手は何でしたか。

校長先生の熱意です。正直、臨時職員として務めていた頃は、新渡戸の先生は私とはまったく違うタイプの人ばかりだと感じていたのです。どちらかというと「オーソドックスな公立の教員」というタイプだった私は、そのような先生たちの間で、自分の教え方や先生としてのあり方に自信をなくしていたほどでした。

そんなときに、杉本校長が「『芸』でいうと、色物も必要だけど、オーソドックスなものも大事ですよね」と背中を押してくれたんです。芯がないのは困るけど、いろんな「芯」があっていい、と。「鈴木先生はしっかりした芯を持っているからこそ、求めている」とおっしゃってくれて、単純に嬉しかった。不安はあったけど、飛び込んでみようと思えました。

5.具体的には、どのような点で不安を感じたり、自信をなくしたりしていたのでしょうか。

例えば、「プロジェクト科」という今でこそ新渡戸に根づき始めている探究学習の科目について、当時の私はやったこともなければ、どうやるかも分からないものでした。一方それを新渡戸は大事にしている。その「柱」の部分を自分が理解したり、実践できたりといったことが足りていないというのも大きかったです。

新渡戸は子どもが、良くも悪くも先生を「一人の大人」として見ているんです。信頼していない大人には信頼していないという態度で挑んでくる。そしてそれを、先生も先生で、力でねじ伏せようとしない。

それを端的に表すエピソードがあります。私の臨時職員初日。理科の授業でした。まずは授業見学を、ということで、子どもたちの様子を参観させてもらったときのことです。iPadを出す時間ではないその単元で、ある男の子がiPadを使っていたので、「それってどこにしまうのかな?」と聞いたのです。

そしたら、返す刀で「うるせえ」と、きたわけです。当時の私は大変驚きました。自分が傷ついたなどということではなく、こうした子どもに、ほかの先生たちはどのように対峙しているのかなと思ったのです。少なくとも、その状態をおそらく先生たちはねじ伏せていないわけなのだな、と。公立では出会わないようなタイプの子どもでも、力でねじ伏せていない、であればどのように?と。自分にできるかな、というのももちろんありました。

この話には後日談があって、私に「うるせえ」と言ってきたその子は、現在6年生です。今ではもうそんな話も笑い話になるくらい、今は6年生たちともとても良好な関係です。その証拠に先日、ある6年生にこんなことを言われたんです。「先生も、1年生を担任するまでになったのかあ。真面目さが買われたのかなぁ。出世したねえ」と。出世はしていないですが、そんな軽口を叩いてくるくらいには、信頼関係を築けているかなと思っています。

あのときの彼を思い出すと、相手のことを思いやる言葉の選び方はあったとはいえど、彼は私を「見定めて」いたわけです。端的に「先生だからすぐに従う、信じる、そんなことないからね」とまっすぐにメッセージを送ってきた。お互いの信頼関係って、大人も子どもも関係なく、常に緊張感を持ってそこに存在しているわけです。「相手は自分の鏡である」ということですよね。そんなことも、今なら「学ばせてもらったなあ」と思うわけですが、当時の私にとっては、そうした子どもたちとうまく対峙していけるのか、そんな不安もあったと思います。

今では6年生は1年生の強い味方。朝の準備時間には、1年生のクラスに有志の6年生がきてくれて、朝の準備を手伝ったり、お話相手になってくれたりしています。

6.教育、学びについての考え方を教えてください。

「良い」「悪い」、「正しい」「間違っている」といったことを、なるべく子ども自身が考えられるようになってほしいと思っています。親や先生から言われる価値基準ではなく、仮にそれを言われたとしても、「本当かな?」と思える思考の武器を身に着けてほしい。

最近では、1年生の子どもたちがしっかり意見を言ってくれます。私が「こういう授業をやりたいと思っているんだけど、どうかな」と聞くと、「はい!私はその授業のやり方に反対です!」と言ってくる子どもがいます。理由を聞くと、「うーん、なんとなく」といったことも少なくないのですが、まずはそうして「意見を言う」という態度を受け入れたい。その上で、理由がわからない場合「一緒に考えよう」とか、「まずやってみて、感想聞かせてくれる?」とか声がけをしてみています。

先生だから偉いなんてことはないですし、先生も人間ですから間違えることだってあります。先生が間違えていたり、「おかしいな」と思ったらいつでも声をあげてほしい、と伝えています。伝えてくれれば、ちゃんと聞くし、応えるよ、というスタンスです。お互い正直な状態で向き合えた方が、子どもも大人も気持ち良いですよね。

7.そうした考えを大事にするようになった原体験はありますか。

私自身が幼少期に、大人に対してやや冷静な目線を送るような子どもだったというのもあるかもしれません。大げさに言えば、「この人は嘘をついていないだろうか」といったことに敏感でした。たとえば、何かをして怒られたときに、「この人は本当に自分のためのことを想って怒っているのか、自己保身なのか、それとも虫の居所が悪いだけなのか」そういうことを考えてしまう子どもでした。

今自分が教育の現場に立って改めて思いますが、特に高学年になると、「この人の怒りの矛先は何か」みたいなことに、大人以上に敏感だと思います。理科の授業のときに「うるせえ」と言った子どももおそらく、「この人は、僕のことを想っていない」と気づいたのかもしれません。「先生っぽくしようとしているだけだな」とか「盲目的にルールに従おうとしているだけだな」とか。見透かされているんですよね、大人の行動って。

だからこそ、私はいつも「偉いからここにいるんじゃない」と自分を律していたいと思いますし、「自分が子どもだったら嫌だと思う大人」になりたくないなという気持ちでいます。自分で自分に正直でありたいですし、その正直さが子どもに伝播するといいなと思っています。

8.新渡戸の先生や学校運営について、どんなところを魅力的に感じていますか。

2つほどあります。まずは、先生たちの姿勢です。私はどちらかというと過去の経験に基づいて色々進めていくことを好むタイプですが、新渡戸の先生たちは、どんどん新しいアイデアを膨らませるのが得意で、それを好むタイプの先生が多い。アイデアもただ藪から棒に進めるのではなく、振り返りもしっかりする。例えば、今回夏休みに入ったあとも、とにかく真剣に1学期の振り返りをする。今年度新渡戸で進めている「自律のための規律」について、平気で約10時間、侃々諤々議論するわけです。

もう1つは、先生同士のサポート体制ですね。例えば、学級担任以外に学年担当がいますが、新渡戸の場合、学年担当の先生が授業中もよく顔を見せてくれるんです。

公立にいる頃に担任を持っているときは、例えば授業が始まったときに浮かない顔をしている子どもを見つけても構わず授業を進めなくてはいけなかった。「休み時間に何かあったんだろうな」と思っても、声をかけにいけないわけです。

一方、今はそんなときに顔を出してくれた学年担当の先生に「ヘルプ!」と言って、様子を聞いてもらうことができる。その子と一緒に別室に行ってもらって、その子の話を聞いてもらうことができる。10分話を聞いてもらって戻って来たその子のすっきりとした顔を見れば、たとえ10分授業を聞けなくても、その子にとっては授業よりも大切な10分になったであろうと思えます。

9.やりがいを感じている授業や、子どもたちとの関わり、注力している学級作りの方法などの具体例があれば教えてください。

主に算数なのですが、一斉授業だけでなく、自分でできる選択制のコースを用意しています。1学期のうちは、2つのコースをつくりました。「1人で黙々コース」と「友達とわいわいコース」から自分で選択してプリントなどの問題に取り組んでいます。2学期以降は、3つのコースに分けてみようと思っています。1人で黙々コースを、問題をどんどん解くコースと、ゆっくりじっくり一人で取り組むコースの2つに分けて、合計3つです。

途中でコース変更も可能で、自分に最もあったものを選んで集中して取り組めることを目指しています。習熟度や理解度に差があっても、どの子も目標を達成できるようにという意図もあります。

このコースは実は、前任の公立での経験がベースになっています。当時隣のクラスを受け持っていたベテランの教員が、上記のようなコース設計をしながら、どの子がどのコースにいるかを、体育帽を使って分けながらやっていたんですよね。視覚的にも分かりやすいですし、そうすると子どもたちも終わったら「赤色の帽子の子を助けに行く」といったことも簡単にできる。

こうした取り組みは、教科学習でももちろんですが、子どもそれぞれの得意分野ややりたいことを大切にしていく上でとっても大事なことかなと思っていて、今後も様々な形で取り組んでいきたいと考えています。

10.新渡戸についてもっとこうしたい、現状課題に感じていること、などがあれば教えてください。

新渡戸が目指しているのは「自由な子」ではなく「自律した子」です。新渡戸は、「自由な校風=自分勝手が許されている」というのではありません。自分で「何が正しいか」「何が間違っているか」それを考え、判断し、行動できる子どもたちの育成を目指していますし、それをもっと伝えていきたい。これは言うほど簡単ではなく、今も現在進行系で先生たちが日々考え続け、いろいろな実践を続けている過程です。

日本全体で言えば、まだまだ一斉教育が残っている一方で、子どもたちや未来のことを考えれば、それぞれの個性や長所を活かした教育が求められているのかと思います。

そういう意味では、今新渡戸が取り組んでいる最中の「チーム担任制」にはとても可能性を感じています。1学年、2学級、60人に対して教員が3〜4人割り当てられており、例えば現在の1年生では教員1人あたり15人の子どもという計算です。全ての授業に4人全員が入れるわけではありませんが、多くの目があることは、子どもたちだけでなく、私たち教員にとっても子どもたちにとってもとてもよいことだと感じます。

「あの子のこと、もっとフォローしたい」「あの子の話、聞いてあげたい」「ああ、私が30人に分身できたらな」そんなことを前の学校では思うことも少なくなかったのですが、そんなことが、少しずつではありますが解消されてきている気がしています。

取材執筆:染原睦美