アフタースクールこそ「遊び」と「学び」のユートピア
こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただく「先生に聞きたい10のこと。」。今回ご紹介するのは、「学校」ではなく、「アフタースクール」の中の人、中村優花さんです。アフタースクールは、新渡戸文化小学校にとって、学童のような存在。働くお父さん、お母さんの強い味方です。
1.現在の担任、担当を教えてください。
新渡戸文化小学校のアフタースクール常勤職員です。アフタースクールは、いわゆる公立学校では「学童」と総称して呼ばれているようなものですが、共働きのご家庭の子どもたちを中心に子どもたちの放課後を支える場所です。
2. 1日の流れや仕事内容を教えてください。
基本業務としては、アフタースクールのプログラムの準備やプログラムに関わるコーチや指導者との打ち合わせや連携、それにともなう保護者へのお知らせ、個々の保護者への対応があります。非常勤スタッフは子どもたちが放課後に入室してくる午後2時過ぎに出社してくるので、ミーティングをして当日の持ち場を決めて動いてもらっています。
現在、アフタースクールには毎日約120人ほどの子どもたちが通ってきます。アフタースクールが魅力で入学してくださるご家庭も年々増え、現在1年生はほとんどのお子様に利用いただいている状態です。全校生徒が360人前後なので3分の1以上がアフタースクールを使っている計算になります。
スタッフ1人に対して子ども10人前後で見られるようにスタッフの配置をしています。スタッフの年齢層は18歳から70歳まで。大勢の子どもと遊ぶのが得意なスタッフ、一人ひとりに対して向き合ったり声がけしたりすることが得意なスタッフ、外で遊ぶのが大好きなスタッフ、などその特性は様々なので、適材適所で配置することを心がけています。
小学校側との連携も密に取っており、気になることがあれば、こちらから小学校に連絡しますし、先生方もアフタースクールをのぞきに来てくださることもあります。
3.アフタースクールにきた理由を教えてください
2020年に都内の大学の教育学部を卒業して、そのまま新卒でアフタースクールに着任しました。元々大学1年生の頃からアルバイトとして勤務していたのですが、そのきっかけも偶然で、大学に掲示されていたアルバイト募集の中で一番家から近いからというものでした。
教育学部にいたので、もちろん元々は先生になりたかったわけですが、先生になろうと考えたのは「子どもたちのための楽しい空間を作りたいから」でした。自分自身が子どもの頃に不登校の友達がいたのですが、そうした子のことが気になる人間だったんです。特にいじめなどがあったわけではなく「なんとなく行きたくない」と話していて、なんでなんだろうな、と純粋に疑問を持ち続けていました。
そんなこともあって、高校生の頃から教師ではない形で子どもの教育に関わる仕事がしたいと漠然と考えていたことや、大学でも「子どもの放課後の在り方」について卒業論文を書くなど自分の興味関心に合っていたことからも、先生だけが「子どもの場所」を作る存在ではないと気づき、偶然にも出会ったこのアフタースクールでその挑戦をしてみたいという気持ちになりました。
4.実際にアフタースクールで働いてみて、やりたいことはできていますか
本来「やりたい」と思っていたことができている気がします。アフタースクールの特徴は、クラスもなければ、学年もないということ。学年いっしょくたで遊んでいて、時間割もないわけです。おやつも午後5時45分までならいつでも食べていいというルールになっています。その条件下で色々なことにチャレンジできるのは、先生とは違った醍醐味があります。
アフタースクールには、選べる20種類のプログラムがあります。剣道、サッカー、ピアノ、そろばん、プログラミング、英語、と習い事のように各自が決めたプログラムに参加できる。その予定も子ども自身が管理しています。
少し前までは、アフタースクールにきたらすぐに学習部屋にいってもらって、30分は絶対勉強して、戻ってきたらプログラムに行く前に必ずおやつを食べましょう、といったことが今よりもう少し細かく決まっていました。そのルールは「絶対」だったため、なぜ宿題が終わっている子どもも学習の部屋にいなければならないのか、なぜ運動したあとの方がお腹がすいているのに先に食べなければならないのかと疑問を持ちながらも、それを破った子が怒られるといった様子を見てきました。
一方、学園全体が教育を見直し、改革を打ち出していく中でアフタースクールでも色々なことにチャレンジし、変えていこうという流れになり、学習部屋もなくすというハード面から変更し、壁も物理的に壊したんです。壁を取っ払ったら、ソフト面でも時間の考え方や作り方が変わってきました。
新型コロナウィルスが後押ししてくれた側面もあります。密になるのをやめるために、おやつも勉強も集団でやるのを止めざるを得なくなり、でもそうなると、そもそもこれってなんで決めていたんだっけ、と。決めなくても子どもたちが自分自身で考えたり、決められたりした方がいいよね、という良い流れができました。
5.やりがいを感じている取り組みや、子どもたちとの関わり、注力していることなどの具体例があれば教えてください
子どもたちが自ら考えて企画・進行できるような「プロジェクト」ベースの取り組みを強化したいと思っています。1つの興味関心に従って、各学年が協力して進められるようなプロジェクトを、並列的に進めていけないかと考えているのです。
例えば、2年前からやっている「マインクラフトカッププロジェクト」。マインクラフトの大会に出場することを目指して3年生から6年生まで興味がある子どもが集まって協力する。今年3年目になるのですが、続けていると、初年度に3年生だった子どもが今年は6年生となり、自分が分からなかった「時代」を覚えているんですね。下の学年の子どもたちの分からないポイントや分からない時の気持ちが分かる。そうすると、下の学年に自然と教える互助共助の関係になってくるんです。一方で、途中から入ってきた上級生が「これどうやるんだっけ?」と下級生に聞く姿も見られます。
結果、上も下もなく、子どもたちの教える力がすごく伸びるんです。お互いに教える喜びがあり、「ありがとう」と言われる喜びが生まれているのを見ると、嬉しくなりますね。
今は、期間に分けてプロジェクトが得意な指導者を外部から呼んで様々なプロジェクトを実施しています。プログラミングのみならず、食のプロジェクト、国際的なプロジェクトなど、子どもの興味を中心に色々と始まっています。
6. 具体的な「プロジェクト」で印象的なものがあれば教えてください。
親御さんにも見える形のプロジェクトとして好評なのが「カフェプロジェクト」です。アフタースクールには、親御さんが迎えにくることも多いのですが、その親御さんにコーヒーやちょっとしたお菓子を出す簡単な「お店」を子どもたちが運営しているのです。
親御さんがお迎えに来ると、そこから子どもが着替えたり、準備をしたりすることも少なくありません。そうすると、親御さんが迎えに来てから15分、30分と玄関でお待たせしてしまうことも多い。その待ち時間に、飲み物やお菓子を出して差し上げたらどうだろう、と。少額ですが、お金もいただきます。
やりたいと言い始めたのは今の5年生で、そこから実際にカフェをやっているお店に聞き取り調査をしにいって、値段設定を考えるなどしました。運営を開始してからも、「冷たい飲み物には氷が必要なのか!」とか「夏にチョコレートを出すと溶けるのか!」「飲み物って、冷蔵庫に入れると一瞬で冷えると思ってたけど、冷えない...!」など、やってみるとたくさんのことに気づき、学ぶんですよね。
さらに、玄関でカフェをやっている、ということを親御さんに知らせたいということでVIVISTOPで看板を作ったらどうだろうとなり、子どもたち自ら看
板を作ったりもしました。
また、お金を回収するのは5年生だけにしたり、手伝いたいという低学年の子どもたちにどんな役割分担をするべきかを話し合ったりと常にPDCAが回っている状態です。お迎えに来てくださる親御さんのうち今も毎日半分くらいの方々が、飲み物やおやつを買ってくださっています。
7.現在の仕事のどんなところにモチベートされていますか。
私はこの仕事の一番の醍醐味は「子どもの成長を身近に感じられること」だと思っています。「子ども」と対峙できる今の仕事に誇りを持っています。
子どもは、日々真剣に遊び、悩み、学び生きていく彼らは、様々な出来事から「考えを深める」作業をしています。自分の仕事の意義は、そんな子どもたちをサポートすることです。
8.教育、学びについての考え方を教えてください。どんなことを念頭に子どもと関わっていますか。
私は子どもたちに「こうなってほしい」と思って対応することはありません。子どもたちは、大人が「なってほしい」ものになる存在ではありませんし、私たちの想像を超えて成長していくものだと信じているからです。
一方、ただ1つだけ「こうなってほしくない」という思いがあります。それは「向上心をなくしてしまうこと」です。
夏目漱石の『こころ』で「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉があります。作中では様々な意味で使われていますが、私はこの「向上心」を「考え続けること、理性的であること」と捉えて、このセリフを自分の信念として持っています。
そのために、私達に何ができるかというと、常に「考えること」を子どもたちに促すような対応を心がけることだと思っています。「こうしてほしい」とか「こうしなさい」ということはせず、「答え」を差し出すようなこともしない。「今、自分は何がしたい?」という自分と向き合う声かけや、「どうしてこうなったと思う?」といった状況を考える声掛けなど、子どもたちが、「考える」そしてその考えた結果を言葉にして「発言する」ということがしやすいような声がけをするように心がけています。そのときには、できるだけ「YES/NO」で答えられる閉じられた質問ではなく、言葉を紡いでもらうようなオープンクエスチョンをなるべくするようにしています。
もちろん、この質問が苦手な子もいます。その場合、無理に発言させることはありませんが、何度も少しずつやっていると、少しずつ頑張って言葉で表現してくれるようになります。これからも「考えて伝える」という人間の本質的なことを大事にしていきたいと思っています。
9.アフタースクールでの、子どもとの関わりで印象的だった出来事、またそれが印象的だった理由を教えてください。
1年生の時はサッカープログラムにどうしても行かず辞めてしまったのに、2年生になってから急にサッカーをやりたい!と行くようになった子どものことです。1年生の時は試合が始まると、ゼッケンを着せて背中を押してみたり、一緒にボールに触ってみたりと、あらゆることをやってみたのですが、必ず「やりたくない」と戻ってくる。
元々は親御さんと相談して決めたのだと思いますが、私達としては、子どもがやりたくないというものを無理にやらせるというのは違うと思いつつ、親御さんからすると「やらせてほしい」という方もいる。「家でももう少し相談しておいで」とは言うものの、なかなか難しい...。色々と試行錯誤しながら2年生を迎えました。
ところが、2年生になった冬頃から、突如として行くようになったのです。おそらくサッカーのW杯でみんなが盛り上がり、学校でもアフターでもサッカーに自主的に触れる機会が増え、ルールを知り、サッカーに関する用語を知った結果「やりたい」という気持ちが芽生えたのかなと思います。
子どもはもちろん「好き」という気持ちで勝手に駆動することもありますが、「理解」が「やってみたい」「好き」に繋がることもあるのだな、と学びました。また、大人から見ると、アフタースクールのプログラムは魅力的で、特にスポーツではキラキラと汗を流しながら友達と切磋琢磨しながら頑張っている姿を見るととにかく応援したくなります。ただその陰で「行きたくない」と言う子がいることを忘れてはいけない。そしてその理由は様々であり、「行かない気持ち」から「行きたい気持ち」までには一人一人のグラデーションがあります。それをスタッフがしっかりとくみ取り、画一的でないサポートをしていくことが必要だと気付かされた出来事でした。
また、この出来事を経て、サッカーのプログラムを初級と中級に分けるなど、すぐに次の企画に柔軟に繋げていけたことも、この仕事の醍醐味だと感じました。
10.アフタースクールについて、もっとこうしたいと考えていることなどがあれば教えてください。
プログラムのブラッシュアップや、プロジェクトを動かしていくことは、常に意識していきたいです。子どもにとっての、遊びの場であり、遊びが学びに繋がっていくユートピアのような場所であるからこそ、それをしっかりと意識して、子どもの居場所を作っていきたいです。
アフタースクールの運用軸は「人」です。常勤、非常勤合わせて20人以上いるスタッフさんたちが実際の現場で子どもたちの対応をしてくれています。
一方、親御さんや子どもたちからみたときに、常勤か非常勤かといったことは関係ありません。子どもとの接し方や学校との連携など、どのスタッフも質量ともにそのアウトプットを皆さんに満足してもらえるようにしていきたいと思っています。
取材執筆:染原睦美