小学校で飛び石連休の平日を休みにしてみたら。
こんにちは。今日は連休中日。勤労感謝の日である昨日木曜日の祝日から本日金曜日はお仕事を休んで4連休にされる方も多いかもしれません。
実は、本日は新渡戸文化小学校もお休みです。「ハピネスホリデー」と名付けられたこの休みは、2022年4月から新渡戸文化小学校に取り入れられたもの。暦上、いわゆる飛び石連休となる平日をお休みとする取り組みで、新渡戸文化小学校の児童は、これによって今回は4連休となっているわけです。
ハピネスホリデーによって、「親は仕事を休めるのに、子どもが連休にできないから...」といったご家族の悩みを解決し、先生も張り切って連休を楽しめるという、子ども、先生、家族三方よしの施策。土曜日に授業があった際に月曜日が振替休日になるのは多くの学校で一般的かと思いますが、こうした「社会」の動きに合わせたお休みの設計はなかなか見たことがありません。どのように実現しているのでしょうか。
「飛び石連休で年休消化」は珍しくない
「元々は、2021年ごろ、働き方改革のためのタスクフォースのようなものが学校内で立ち上がったのがきっかけでした」と話すのは、遠藤崇之校長補佐。そのタスクフォースで話し合いを続けている際、たまたま飛び石連休のあとに会議があり、「こういう平日を休みにできたら、先生たちにとっての余白ができるだけでなく、ご家庭にとってもよいのではないか」とタスクフォースメンバーが話したことから検討が始まったといいます。
「働き方改革の側面から検討を開始したわけですが、子どもにとっても親御さんにとっても、連休になるのはよいこと。一般的な会社勤めの方であれば、飛び石連休は年休を消化するために休みを取る方も少なくありません。一方、学校だけが暦通りだと、結局家族の足並みが揃わない。僕自身が会社員から学校に入ってきたときに感じた違和感でもあったんですよね」(遠藤校長補佐)。このあたりも、一度会社員を経験していたり、複業を認めていたりする先生陣が多い新渡戸ならではの感覚かもしれません。
「新渡戸文化小学校にはアフタースクールがあったことも、ハピネスホリデーを導入してみることに踏み切れた理由の1つです。仮に、親御さんがお休みを取れなかった場合、その平日休みはご家族にとっては子どもが自宅に留守番せざるを得ない状況を作ってしまう。でも、アフタースクールはハピネスホリデーの日も開くこととして、そうした子どもたちも受け入れられるように整えました」(遠藤校長補佐)。
学校が「設計できる」時間をどう扱うか
こうした休暇設計はあまり聞いたことがありませんが、実はその仕組みは、そこまで難しくないといいます。
例えば、小学校6年生であれば、1年間で学ぶべき勉強内容が1015時間(コマ)と学校教育法施行規則で決まっています。これは、年間で35週間、週29コマに相当します。1週間は平均5日ですから、例えば、4日間は6時間授業、1日だけ5時間授業とすれば、規定範囲内となるわけです。
一方、夏休みや冬休みを除いた学期の実態としては、40〜41週ほどあります。実はここにバッファがあるのです。このバッファの時間に、一般的には上記の1015時間以外の活動として運動会や文化祭などの行事準備や行事そのものの時間を確保します。結果、子どもたちは1015時間以上「学校で学んでいる」ということになります。
「このバッファをどう捉え、どう使うか、なんですよね」(遠藤校長補佐)。
どういうことでしょうか。例えば、40週あったとしたら、本来35週間必要な学習時間からすれば約5週間ほどのバッファが生まれる計算になります。この5週間を行事などに当てるのもよいし、それ自体を学びとして教科に入れ込んでもいい。これらの時間を特に昨今であれば、突発的な学級閉鎖などのために文字通り「バッファ」として残しておくこともありえるでしょう。当該5週間は、学校が実質自由に設計できる期間ともいえます。
1学期開始も後ろ倒しに
「休暇を増やすために、上記のようなことをやっているというよりは、今までのやり方にこだわらず、まずは子どもにとってよい学習や経験がどんなものであるべきか、そしてそれが先生たちにとっても幸せかを考え、そのあとに年間計画を考えるという風にしている結果なんです。その一つの表れがハピネスホリデーとして施策にできた感じです」(遠藤校長補佐)。
2022年度の春休みからは、春休みの終了時期(1学期の開始時期)を後ろ倒しすることも試みました。以前までは4月6日前後に1学期の始業式がありました。それを、第2週の月曜日を始業式とし、2023年度は4月11日開始と1週間近く後ろ倒しにしたのです。
「先生にとって、春休みは準備の時期。この時期の準備がものすごい大変だというのは、先生方の共通認識です。人事発表は基本的に4月1日。自分自身が何年生の担任になるかをその時点で把握し、学年の担任の先生同士で打ち合わせをしたり、名簿を作るなどの細かい作業をしたりと一気にクラスの準備を始める。到底5日間では無理ですよね。それが2倍の時間がとれるとなれば、しっかりと準備ができ、結果子どもたちにとってもよい新学期のスタートとなるわけです」(遠藤校長補佐)
こうした考えをベースに、前例踏襲ではなく、ゼロから年間計画を立てることができたなら、子どもにも、ご家庭にも、より幸せな学校作りを実現できるはず。そしてなにより、本来ハピネスホリデーを考えるきっかけともなった、先生たちの「生き方」を応援することにもつながるはずです。
国や文科省も提言へ
小学校や中学校の休暇を巡っては、各県でも様々な動きがあります。大分県別府市や愛知県などでは、家族旅行で学校を休んでも欠席扱いにせず、保護者が事前に申請すれば年間3日まで休暇を取得できるような制度に取り組んでいるといいます。
どちらも家族で出かけることの大切さを、学校で学習することと同じように扱い、「校外での自主学習活動」とし、学びであると捉えているようです。
こうした動きは、国や文部科学省が学校の休暇や授業時間に関して持っている課題意識とは無縁ではないでしょう。
先日2023年9月に文部科学省から各教育委員会等に通知された文書には、標準授業時数1015単位時間に対して、約4割の学校(小5、中2)が1086単位※時間以上を計画しているとし、以下のような例をもって次善策を講じるよう提言しています。※1086単位:平成31年の学校における働き方改革 に関する答申において標準授業時数を大きく上回った授業時数と指摘された単位数
ハピネスホリデーや春休みの設計は、子どもやご家庭、先生からも好評とのこと。今後も引き続き、柔軟な施策を検討してきたいといいます。「何も学校だけが学びの場ではないですし、子どもにとって自分の好きなことに好きなだけ時間を使ったり、家族とそのときにしかできないような経験をしたりすることも大切だという前提で考えていきたいです」(遠藤校長補佐)。
取材執筆:染原睦美