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自動車部品メーカーにいた私が新渡戸にやってきたわけ

こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。早いもので、新渡戸文化小学校公式noteは開始から1年半経ちました。noteを通じて学校に興味をもってくださっている方が少しずつですが増えている実感があり、関係者一同、お読みいただいている方に、改めてお礼申し上げます。

1年半試行錯誤をしていますが、「読んでいます!」のお声の中で、最近増えているのが「先生のことをもっと知りたい!」というものです。今回は、リクエストにお応えして、一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただけるような記事をご用意してみました。題して「先生に聞きたい10のこと。」。

初回は、新渡戸文化小学校に着任2年目、先生としても2年目の松井春菜先生です。それでは、早速、マイクを向けてみることにいたします!

いつも笑顔の松井春菜先生。趣味はヨガとバイクのツーリング、筋トレ!野球は観るのもするのも好き、といいます。

1.現在の担任、担当を教えてください

5年生の担任、国語・算数・道徳・プロジェクト科・学級活動を担当しています。

2.経歴を教えてください

新卒で愛知県の自動車部品メーカーに入社しました。大学は教育学部を卒業しており、元々「先生」という職業には興味がありました。一方、地元が愛知、親戚も自動車メーカーが多かったこと、また、先生になっている先輩から「一度は社会人を経験した方がよい」ということも言われていたので、新卒では一般企業に就職しました。

メーカーの品質管理部勤務として2年が経とうとする頃、結婚のために上京することになり、退職を決めました。東京で別の企業に再就職することも考えましたが、「いつかは」と思っていた「先生」という職業を、改めて考えてみることにしたのです。2021年夏頃に東京都の教員採用試験を受験。その結果待ちをしている2021年9月ごろ、たまたま『教育新聞』の記事で新渡戸文化小学校の存在を知り、その教育観に興味を持ち、面接を希望して、2021年11月に着任、今に至ります。

3.どんな「教育観」に惹かれたのですか

記事をみて、まず興味をもったことは3つあります。1学年3人体制で子どもを見るチーム担任制、自律型学習者を育成しているという点、複業OKで多種多様で多才な先生たちがいるという点です。調べていくうちに「月曜日が楽しくなるような学校作り」を目指しているとあり、そうしたコンセプトにも興奮しました。

昨今では、「学校はブラックだ」とか「先生という職種の人気がない」など、学校や先生という職業がネガティブな文脈で報道されることが少なくありません。その中において、「月曜日が楽しくなるような学校作り」をしている学校とはどんな学校なんだろう、と純粋に興味を持ちました。そのほかにも、調べれば調べるほど、「子どもが主語」「やらされるのではなく、自律すること」といったような好奇心をくすぐられる言葉ばかりに出会いました。自分自身も公立に通っていましたが、「やらされる」とか「子どもはこうあるべき」といった前提で育ってきたので、その逆張りのように感じて、とっても面白そうだな、と。それを、先生の複業OKで多様な先生で実行しているというのですから、本当に早く見てみたい、という感じで、門を叩きました。

4.実際に着任してみていかがですか

聞いていたことや目指しているとされていることは、先生たちの個性と、その先生たちの子どもとの接し方から日々感じています。

5.先生の個性や子どもとの接し方について、印象に残っていることを教えてください

まず、先生たちが発する言葉に日々魅せられています。私自身が、分かりやすく人に何かを説明するのが苦手だということも大きいのですが、「100」感じたら、その「100」をしっかり言葉にできる先生が多い印象です。もちろん、伝えるときに、叱りつけるとか、怒鳴りつけるといったこともありません。

子どもとの接し方については、私が学校の先生として初心者だからかもしれませんが、「ああ、こうすればいいのか」と気づきをいただくことが多くあります。

例えば、クラスには目立っている子、目立ち方も悪目立ちする子、問題なく淡々と過ごす子、いろんな子がいますよね。問題なく淡々と過ごす子は、ある意味手がかからず、放っておいてしまうことも少なくありません。敢えて放っているわけではなく、目立つ子に手がかかることが多いので、自然と目をかける時間が少なくなってしまう。でも、新渡戸の先生たちは、そうした子どもとの関わりがうまいんですよね。

ガーデンと呼ばれる中庭で見られる光景は、先生と一緒にトランプに興じる子どもたちや、鬼ごっこをする子どもたちなど様々です。

具体的には、賑やかな子は、先生の周りに集まってきて、あれやこれやと話す子が多いですよね。そんなときに、敢えて淡々と黙って過ごしている子どもの近くに先生が行く。そうすると、先生とその子の周りに、必然賑やかな子たちが集まってきて、輪が出来る。そうして、子ども同士の接点を自然と見つけてあげている。先生たちが敢えてやっているのか、自然体でされているのか分かりませんが、そうしたことを見つけると、「そんな方法があったか...!」と毎回感激してしまいます。

6.新渡戸文化小学校には、どのような先生が多いですか

新渡戸の先生たちは、すごく前向きで、積極的で、子どもの未来を考えて日々働いているという印象です。「前例踏襲でいいや」というような雰囲気が全くなく、私自身のパーソナリティとも合っていて、そういうところが好きです。そうした先生たちの雰囲気は色々なところで感じますが、例えば、スポーツデイ(運動会)一つとっても去年と同じ、ということがなく、毎年、ブラッシュアップしていますよね。

7.教育、学びについての考え方を教えてください

「先生」と毎日呼ばれることで自分が偉いと勘違いしないように、自分の立ち位置を常に確認するようにしています。わたしが子どもを立派に育てるのではなく、子どもがたくましく自分で育つ、その最大限の可能性を広げていきたいと願い過ごしています。そのために、「自分で自分を先生と呼ばない」、「I(アイ)メッセージ*で想いを伝える」を心がけています。

*編集部注:「あなたは」ではなく「わたしは」で話しかける手法。「人に対して物を投げないでくださいと、何度言ってもなぜ(あなたは)分からないの?」と伝えるのではなく、「私は、あなたが何度も人に物を投げるのをみて、悲しい気持ちになったよ」と伝える。

8.注力している学級作りの方法があれば教えてください

子どもたちについてちゃんと「見ているよ」ということを伝える活動、でしょうか。例えば、掲示物。自分がいいな、と思ったクラスの動きを居酒屋のお品書きのように貼って、見える化しています。それ以外にも、「あなたのこんな行動が嬉しかった」というのを伝えて、それをチケットにして溜めてもらえるような仕掛け。子ども同士が、誰かの何かを「素敵!」と褒める付箋。どれもすべて、掲示物にして常に見えるようにすることで、掲示物からプラスのエネルギーをもらえるようにと思っています。今年が終わる頃には、こういう誰かが誰かを想う気持ちや言葉で教室が埋め尽くされているといいな、と。

松井先生が「居酒屋のお品書き」と呼ぶ色とりどりの紙。クラスで見つけた「嬉しかったこと」を見える化しています。

実は、この学年は私は2年目なんです。赴任した直後にもった学年をそのまま持ち上がりで受け持っています。日本財団の調査にもありますが、一般的に日本はそういう傾向があるとも言われていますよね。「自分なんて」と思っている子が少なくない。

勉強を一生懸命頑張っている子どもも、なんだか満たされていないように見えますし、みんなどこかで何かを抱えているように見えるんです。そうした子どもたちを見て、当たり前のことでもいいから、お互いが口に出せるような活動ができるといいなと思って始めたのが掲示物の取り組みでした。「優しいねえ!」とかなんでもいいんですよね。これを続けることで、クラスがどんな雰囲気になっていくのかが、楽しみです。

掲示物であふれる教室。「成長ジャーニー」の下には、子どもたちが受け取れる「成長」のチケットが並んでいます。

9.子どもとの関わりで印象的だった出来事教えてください

上記の活動とも繋がってきますが、とにかく、アタッチメントの形成をしていくことで、子どもが少しずつ変わってきていると実感していることでしょうか。

特に、問題があったときの仲裁が分かりやすいかもしれません。誰かが誰かに悪意をもってボールをぶつけた。そのときに、ぶつけた方が悪いという体で仲裁に入るのではなく、お互いの言い分やそのときの気持ちや言い分を聞きます。そのときの気持ちに「良い」も「悪い」もないと思うからです。思ってしまうものは思ってしまう。怒ったり、腹が立ったりします。でもじゃあ、その気持ちから湧き出た行動がどうだったか、その方法で相手に伝えようとしたことはどう思うか?というように子どもに問いかける。そうすると、全部が全部ではないですが、冷静に話をしてくれる子が多いです。

「誰が悪い」ということではなく、それぞれの言い分を聞き、それぞれの考えを、まずは一旦受け止める。ステレオタイプな判断を私がするのではなくて、お互いがお互いに向き合えるような伴走をするよう心がけています。

実際こうしたことを続けていると、子どもたちの顔が、優しくなったり、友達同士の諍いが減ったりしたように感じられています。

10.新渡戸文化小学校について、課題に感じていることがあれば教えてください

私自身も迷っているところですが、「自律型学習者の育成」と「(規律を守るなどの)型の教え込み」のバランスをどうとっていくかがとても難しいと感じます。「型」については、現在「全校ミーティング」などの取り組みを経てルールメイキングをし、自分たちで決めていく、といった取り組みをしていて、新渡戸らしいユニークな形になっていくのかな、とも思っていますが、そのあたりの体系化がもっとできていくといいのかなと思います。

こども園から小中高短大とあるのも学園の特徴です。同じキャンパスに集っているわけなので、こうしたところの連携や繋がりの強化でもっと面白いことができていくといいのかなということも、今後私自身も含めて模索しながらチャレンジしていきたいと思っています。


取材・編集:染原睦美