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自分の「得意」を、子どもたちに注ぎたい

こんにちは、新渡戸文化小学校note編集部の染原です。一人ひとりの先生たちのことを深く知っていただく「先生に聞きたい10のこと。」。今回は、木下サリ先生です。カトリックの私立小学校に10年以上勤務し、その後新渡戸文化小学校に着任。「とにかく本が好き」という木下先生は、今年から図書の担当になりました。新渡戸で取り組んでいること、その土台にある思想はどのようなものなのでしょうか。

小さなころから本が大好き、というサリ先生。図書担当になってからは、書店、図書館、子ども新聞、テレビ番組、ブックフェアなどあらゆる情報源から本の情報をインプットしているのだそう。

1.現在の担任、担当を教えて下さい。

4年生の学年担当と3、4年生の社会科、小学校の図書の担当をしています。​

2.経歴を教えて下さい。

東京の大学を卒業後、カトリックの私立小学校に10年以上勤務し、2007年に新渡戸に着任しました。前職で職場結婚をし、別で働くことを検討していた際に、縁あって新渡戸に来ることに。当時の新渡戸文化小学校の校長先生が前職の教頭先生をよくご存知で、紹介してくれた形でした。

3.2019年から理事長が変わり、大きな変革期を経験されたと思います。以前と今で変わったところと変わらないところを教えて下さい。

変わったのは、「子どもが主体」というところでしょうか。例えば、自分たちで授業をつくったり、子どもたちのやりたいことや課題に感じていることを中心に何かを実行したりといったことです。

これは新渡戸に限ったことではないと思いますが、従来の教育現場は、子どもたちに対して、何かを教え、それを教えたとおりにするように強いていた側面があったかと思います。それが、特定の場面で必要なこともあるかもしれませんが、今は子どもたちが、自分たちの良さや得意なことを発揮できることを主眼に置いた教育がより大事になってきていると感じます。

以前と比べて、少なくとも私の中で変わっていないことは「目に見えないことを大切にする」ことです。これは新渡戸文化小学校は元々クリスチャン系の学校だったこともあり、当初から大切にしている思想ですし、どんな学校になってもこの思想が私は好きです。

子どもたちの小さな喧嘩などもそうですが、誰かに叩かれたといったような、「今、目の前で起きた事実」ももちろん大事ですが、それが起きるに至った相手の気持ちなどに思いを馳せることのできる子どもたちでいてほしいな、と思います。

4.新渡戸のどんなところにモチベートされていますか。

教員がやりたいことを挑戦させてくれる雰囲気があることでしょうか。杉本校長がいつも言ってくださる言葉があります。「報告は必要ですが、先生たちがやってみたいことには是非どんどん挑戦してください。責任は僕がとります」と。この言葉は本当に大きいなあと常々思います。こういう雰囲気があるからこそ、先生たちの個性や得意なことに溢れる学校になっているのだと思います。

先生や管理職の方たちの動きもとても早い。例えば、トラブルが起きた時、管理職の先生も一緒に迅速に対応してもらえるのは、特に若い先生や着任して間もない教員にとっては心強いと思います。

5.教育、学びについての考え方を教えてください。

3つほど大事にしているポイントがあります。1つは、その子にしかない良さを探し、伸ばして、自己肯定感を高めること。もう1つは、「子どもに学ばせる」のではなく「子どもと学ぶ」こと。3つめは、相手に気持ちを伝えること、です。

1点目については、分かりやすい例でいうと、学校という特性上、例えば勉強がよくできる子どもやスポーツができる子どもが、目立ったり、「すごい!」と言われたりする機会が少なくありません。それはそれで悪くはないのですが、私は子ども一人ひとりの「あたなのここがいいね!」というところを、小さなことでいいから見つけてあげたい。

例えば、司会進行がすごくうまかったり、みんなをいつも笑わせてくれたり。「友達のために涙を流せる」といったことも、素晴らしいことですよね。そうしたところを大きくしてあげたいんです。

大事なのは、私達教員の、「気づく目」だと思うのです。友達のために涙を流せる感受性に気付けるか。私もまだまだですが、一人ひとりの良さを、私がまず感じて、それを声にだして、みんなに分かってもらえるよう伝える。そんなことを大切にしています。

2点目は、子どもと一緒に私もまた学ぶ、ということですね。教えるのではなく、ともに学ぶ。これは「そうしたい」という以上に、私自身が30年間の教員経験を経て実感しているところでもあります。子どもたちからよく「先生見て!こんなこと見つけたの」と言われて、「知らなかった!」ということが今までも本当にたくさんあったんです。教員が教えてばかりではなく、子どもたちからもまた学ぶという姿勢をいつでも大事にしていたいと思っています。

3つ目は、友達同士を認め合いながら、相手に自分の気持ちをしっかり伝えることができるようになってほしいという点です。特に、低学年の場合、まだ言葉で伝えることが苦手な子どもも少なくないため、いさかいがあったときに手が出てしまうことがあります。でも、そもそも手を出したかったわけではないんです。それが目的ではなかったはず。その手前に、「一緒に遊びたかった」とか「傷ついた」とか、何かしらの気持ちが、きっとあったわけです。そういう場合に、安易に「ごめんね」とお互いに言わせて終わりというのではなく、「これが嫌で、手を出しちゃったんだ」と、行為の前にあった気持ちや考えを伝えられるように伴走してあげたいと思っています。

6.新渡戸での、子どもとの関わりで印象的だった出来事、またそれが印象的だった理由を教えてください。

以前担任をしていたクラスで、3学期末にサプライズパーティをしてもらったことがあります。4年生の担任だったのですが、その学年になると、「次年度は担任が変わってしまうことが多い」ということが分かってきていて、クラスで私にお礼をしたいということになったのかと思います。

あとで聞いてみると、学校内で使える会場を調整したり、学校の先生にサプライズをするという企画を実施していたテレビ局にその企画を実際に学校でやってくれないかと依頼の電話をしたり、当日は私が会場に行かないように、他の先生にも協力を依頼したりと準備から当日まで多くの調整をしてくれていたとのこと。それを聞いて、私自身のために企画してくれた、という以上に、この企画をやりきったという子どもたちに感動したのです。

サプライズパーティーの当日の様子。

様々な行事でもそうですが、1クラス30人もいれば、乗り気ではない子どももいるはずです。当日に至る過程で、葛藤や揉め事、うまくいくこといかないことがあっただろうと思います。それでもクラスをまとめあげて、みんなでやりきったのだろうなあと思うと、その一生懸命さに心打たれました。

7.やりがいを感じられている授業や、子どもたちとの関わり、取り組みなどの具体例があれば教えてください。

2024年4月から、担任を離れて図書の担当になりました。小さな頃から本が好きで、教員になった直後に司書の免許を取ったこともあり、いつか学校の図書の担当をしてみたいと思っていました。一方、担任をしながら図書の担当というのは、難しい。それくらい子どもにとっての「本」という存在は大事だと思っているのです。やるなら、専任でとことんやりたい。そう思って、数年前から校長先生に志願していました。

担任を担当していたころも、小さな本棚を教室に置いて自分が好きな本を置いたり、「絶対に読んでほしい!」と思う本を給食の時間に読み聞かせたりもしていました。担任や国語の担当をしていれば容易ですし、一方算数を担当していた頃も、担任の先生にお願いして、算数の授業なのに「夏休みにどうしても読んでほしい!」と本を紹介したこともありました。

教室に小さな本棚を置いて、子どもたちが自然と本を楽しめる空間づくりもしてきたといいます。

自分の得意なところを子どもたちに注ぎたい、そう思っているんです。そしてその環境があるのも新渡戸の良さだなと感謝しています。子どもと本を通じて深く関わりたい。子どもが好きな本を知ることで、その子自身のことを深く知ることにもつながると思っています。

8.図書担当として、どのようなことに挑戦していきたいですか。

まずは、図書室の雰囲気づくりですね。本を読む以前に、「自分の時間を大事に過ごせる場所」にしていきたい。何かを知りたいときに本を読むというのは、本の素晴らしさの一つであると思いますが、図書室は必ずしも「知るために来る」場所でなくてよいと思っています。ずっといて落ち着く場所、そんな雰囲気にしていきたいと思います。明るくて、ゆっくりできて、「自分の場所」と思えるような場所です。

ハード面についても、本棚一つとっても、上の段は高学年でもギリギリ届くか届かないかの高さ。もっと低くしてもいいかなあ、とか。机や椅子の置き方なども考えていきたいですね。

もちろん、中核となる本のセレクションは「一丁目一番地」。古いからこそ価値がある本、新しくすべき本、子どもたちが知っている本、知らない本、絵本から児童書まで、あらゆるバランスを取った選書をしていきたいと思います。

9.子どもたちにはどんな読書体験をしてほしいと考えていますか。

本によってどんどん世界を広げてほしいと思います。「今」好きな本に没頭することはとても良いことだと思いますが、「これから好きになる本」「好きになれるかもしれない本」にどれだけ出会えるかもまた、大切だと思っています。そんな機会を私も子どもに提供してあげたいと思っています。

私自身も、本によって世界を知ったり、想像力を養ってきたりしました。知らない世界を知ったり、誰かの痛みや喜びを感じられたり、そういうことのためにどんどん本に触れてもらいたいと思っています。

10.最も影響を受けた本とその理由を教えて下さい。

一番、というのは本当に難しいのですが、星野富弘さんの本は人生の中で大きく影響を受けた本の一つです。中学校の先生だった星野さんは、体操の授業で自分が宙返りをした際に怪我をして首から下が不随になります。それでも、口で筆を持ち、生涯絵を描き続けた方です。『かぎりなくやさしい花々』(偕成社)という3〜4年生向けの本がおすすめです。彼自身がどのようにして人生を送ってきたのかということを、丁寧に小学生にも分かるように書かれた本です。

実は、この本は、自分が新人の教員だった頃に4年生の子どもに教えてもらった本なのです。彼女が学校に持ってきていて、「何読んでるの?」と聞いたときに教えてくれた本なのです。このときから、私は子どもたちに学ばせてもらっているんですよね。そんな体験から知った本、ということもまた、この本が私の中で大切なものとして生き続けていることの理由なのかもしれません。

取材執筆:染原睦美

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