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誰かに評価されるのではなく、自分で自分を評価できる人に

「学校の、なかのひと」と題して、新渡戸文化小学校で働く人や、そこに留まらない様々な学校や公教育に関わる人を紹介するシリーズ。

第1回目に続き、新渡戸文化学園の理事長、平岩国泰さんにお話をお伺いします。

プロフィール

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに「放課後NPOアフタースクール」の活動を開始。2011年会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。アフタースクールには活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。2017年より学校法人新渡戸文化学園理事。2019年より同学園理事長を務める。

大人の「仕事」を、子どもに渡そう

——前回、子どもの「自己決定」をサポートすることの大切さをお伺いしました。実現のためには、日頃からもっと、子どもが「自分で決める」「自ら決めたことだ」と思える瞬間をたくさん用意する必要がありますね。

小学校って選べないことだらけなんですよね。先生や学ぶ内容はもちろん、席も教室も。今の小学生は、1日のうちにどれくらい自己決定しているでしょうか。どんな学び方で、どんなスピードで進みたいか、そんなことも自分で決められるといいですよね。たとえば、算数を時には先生ではなくて、自分より少し進んでいる子に教えてもらったっていいかもしれない。座る場所もフリーアドレスになってもいいし、先生たちだってもっと自由に働けるといい。実際には実現までには時間がかかることもあるとは思いますが、そういうことを一つひとつ子どもに決めていってもらえたらいいなと思っています。

これって、結局大人の仕事を子どもにどんどん渡していくということなんですよね。これまで親や先生が担ってきたことの中にも、子どもがやることによってむしろ学びになることだってたくさんあるでしょう。係活動もそうですし、学級通信の作成などもそうしたものの一つだと思います。校則を決めることもそう。大人が決めるのが当たり前のように思ってきたことを一旦全部荷下ろしし、子どもを中心とした共同体を生み出す。「指導」などという言葉も一度頭からなくしてみるといいのかもしれませんね。大人ができることは、ここでもやっぱり伴走とか支援なんです。

小学校に成績表は必要ですか?

——先生や大人もまた、一緒になって既存のルールを疑ったり、変えていったりする姿勢が必要になりそうです。

そうですね。例えば、成績表もそうしたことの一つだと思っています。日本の学校の成績表の多くは一方通行だと思うんです。例えば、入学直後の小学1年生は、一生懸命机に座って毎日勉強をしている一方、「自分が評価されている」ということがよく分からないままにある日成績表を渡されるわけです。評価は本来は目標設定とセットであるべきです。

もちろん評価やフィードバックは必要です。ただ、「自分がどうありたいか」の目標設定の話し合いがちゃんとあって、そこに向けて頑張れる環境を用意してあげることができないか。

新渡戸文化中高では、期初に『エンゲイジメント週間』という、その学期の学びと自分を紐付ける期間があります。また『プレゼン型三者面談』を通じて、学期の終わりに生徒が自身の学びを振り返りプレゼンし、それを先生と保護者が全力で応援するというスタイルを取っています。

小学生にも、そういうことがあってもいいと思っています。今のスタイルの成績表のつけ方では「評価は誰かにされるもの」という意識が極端に強まってしまいます。もちろん他人からの評価も大事ですが、それと同じくらい「自分で自分の評価をする」というメタ認知できる力をつけることも大切ではないでしょうか。

先生と親、子どもが一緒に「どんな1年にしようか」と考える機会があれば、子どもに関わる大人が1つになって、子どもの目指したい姿、未来に向けたチームメイトになれますよね。

——すでに取り入れている「自己決定」を促す取り組みにはどんなものがありますか。

昨年からは小学校で初めての取り組みとして、「全校ミーティング」と題し、学校のルールメイキングを始めました。今取り組んでいるのは、「朝、制服から体操着に着替えるべきか」という議題です。新渡戸文化小学校では、登校時に必ず皆が制服から体操着に着替えるのですが、この着替えは必ずしも必要か、そもそもどういう背景があってそのようなルールになったのかを調べるところから、児童同士意見を交わし、先生に話を聞き、保護者の皆さんにも意見を聞き、議論しています。

「全校ミーティング」での黒板。「自分たちの学校は、自分たちでつくっていく!」の力強いビジョンがまぶしい(写真:新渡戸文化小学校提供)

クラスの係活動では、「自分たちのクラスにどんな係が必要か」を先生と一緒に考えて、必要な係を決めるクラスがあります。例えば、「アフター呼び係」という係があるんですね。一般の人には何か分からないですよね。その日、アフタースクールに行く子どもを、帰りの会で確認してあげる係です。アフタースクールは、共働きの子どもだけ利用するわけではなく、行きたい子が行きたい曜日にいける仕組みになっているため、曜日によって行く子、行かない子がいます。子どもが「今日は自分はアフタースクールの日だ」と気付いてもらうために、参加リストに入っている子どもを、読み上げてる係なんです。これも新渡戸文化小学校ならではの係ですよね。

すべての学校が「月曜日に行きたくなる学校」に

——一方で、子ども一人ひとりの「好き」を見つけたり、意思決定を支えたりすることは、言うほど簡単ではないような気がします。

先生が一人ひとりの子どもに伴走するためには、先生にも余裕が必要で、先生自体にも「自分の好き」を追いかけられる余白が必要ですよね。そのために、先生方の働く環境をいかによくしていくかも大切だといいます。先生が幸せな学校は、きっとそこに通う子どもたちも幸せを感じられる学校になると思うのです。

向こう3年から5年以内に、先生たちの残業を限りなくゼロに近づけたいと考えています。そのために、親御さんや周囲のコミュニティ、その学校に集まるステークホルダーの方々といかに協働関係を築くかが重要だと考えています。学校での仕事が終わった先生たちが、「今日は映画を観てから帰ります!」と言ってもらえるような環境を作っていきたいですね。

——本日のお話は、本来、公立の小学校を含む、すべての公教育で当たり前のように意識されるべき考えかもしれませんね。

「あそこだからできる」とか「私立だからね」と言われるようではまだまだだと思っています。新渡戸でできればいいという話ではないんです。公教育全体が進化していく必要があると思っています。

小学校の先生は特にそうですが、クラス運営において「先生がクラスをつくる」という考えから「みんなでクラスをつくる」にアップデートするのが最初の一歩です。誰もが学校のつくり手なのです。

未来の学校のために、私学であるわたしたちが多くの挑戦をし、素早く、かつ、たくさんの小さな失敗をし、そしてそのすべてをオープンにしていく。そうした営みによって公教育全体の底上げに微力ながら貢献していく。そんな日々の積み重ねによって「月曜日にいきたくなる学校」が世の中に溢れる日がいつくることを夢見ています。

取材執筆:染原睦美
撮影:鮫島亜希子

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